【追悼企画】『志村けんが愛したブラック・ミュージック』
 特別編:志村けんインタヴュー【1980年9月号より】

pic : Masashi Kuwamoto

「【追悼企画】『志村けんが愛したブラック・ミュージック』レコード評原稿・再掲載」は全10回で、前回のチャカ・カーン作品評で折り返し。そこで今回は予告通り特別編として、志村さんに原稿を執筆していただいていた雑誌『jam』1980年6月号に掲載された「志村けんインタヴュー」を再掲載!

他のメディアでも音楽ファンであることを語るインタヴューはいくつかあったようですが。1980年という、文字通り飛ぶ鳥を落とす勢いだった頃のものは、これ以外にもあるのでしょうか? いずれにせよ、非常にレアなものだと思われますので、どうぞごゆっくりお楽しみください。
:志村けん/(志村けん)


【音楽雑誌『jam』】
『jam』は、1978〜1981年に弊社が刊行した音楽を中心としたカルチャー雑誌です。『ミュージック・ライフ』『ロック・ショウ』と編集長を歴任した水上はる子氏が立ち上げ、最後まで編集顧問として関わっていました。ティーンを主な対象読者としたそれら2誌に対し、もう一段階上の年齢層、言わば “その2誌を卒業した読者” に向けたものでした。

【『jam』1980年9月号】
今回のインタヴューが掲載されたのは『jam』1980年9月号(この号の編集長は高橋まゆみ氏)、表紙はジャクソン・ブラウン。「80年代ウエスト・コースト・シーン」と題してその歴史と概要を追いつつ、トップのインタヴューとしてジャクソンを掲載。この他、ニコレッタ・ラーソン、ポール・バレア&ケニー・グラッドニー(元リトル・フィートの二人)、ウォーレン・ジヴォン、ジョー・ウォルシュとインタヴューは続きます。西海岸サウンドを様々な角度から多角的(360°!)に論じつつ、結びの名盤カタログでの50枚は、今セレクトしてもあまり変わらないかもしれません。ここまでで40ページのヴォリュームです。以下、表紙/目次で時代を感じつつ、志村けんインタヴューを最後までお楽しみください(タップ/クリックで拡大できます)。

『jam』1980年9月号
同号目次

◾️ZOOM UP/ウワッ!エンターテイナー
「ZOOM UP」は、毎号掲載されていた情報+コラム集ページ。「ウワッ!エンターテイナー」はその中にこの号から新たに設けられた、ミュージシャン以外の音楽好き著名人にインタヴューする見開き2ページのコーナー。つまり志村さんにはその栄えある第1回目のゲストとしてご登場いただいたわけです。その後微妙にコーナー名を変えつつ、全5回続きました。次号以降のゲストは以下の通り。
1980年10月号:前川 清(当時クール・ファイブ)/11月号:ガッツ石松/12月号:糸井重里/1981年1月号:愛川欽也

◾️写真:桑本正士 協力Masashi Kuwamoto Archives - Music division-
同コーナーの写真はすべて桑本正士さんによる撮影。1947年生まれで惜しくも2016年に他界されたカメラマンで、弊社でも『ヤング・ギター』を中心に、『ミュージック・ライフ』や『クロスビート』『ザ・ディグ』、そしてこの『jam』で大変お世話になりました。現在ミュージック・マガジン社の『レコード・コレクターズ』誌で「桑本正士が写した音楽と記憶の風景」を連載中です。ぜひそちらもご覧ください。


ウワッ!エンターテイナー インタビュー/本誌編集部
写真/桑本正士 photos by Masashi Kuwamoto
 

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志村けん

僕たちの仕事にはテンポっていうものが大切なんだけど、それは音楽から得るところが多いよ。

 

世の中には、いろんな職業に就いている人がいるけれども、自分自身を「見せる」、そう、演技や特技、さらにはキャラクターを披露することによって、人を喜ばせたり、笑わせたり、時には感動的に泣かせたりする人間がいる。今回から始まる “ザ・エンターテイナー” では、『ジャム』がとりあげてきたミュージシャンたちとはちょっと畑が違うところにいる人たち、つまり、俳優、コメディアン、プロ・スポーツ選手など、できるだけ広いジャンルの有名人にご登場願い、彼らの考えや生き方、そして音楽との関わり方などを語ってもらうことにした。

その第一回目にご登場願ったのは、ドリフターズの一員として活躍のコメディアン・志村けん。本誌のアルバム・レビューでも、毎月ソウル系アルバムを中心にレコード評を担当していただき、彼の “ソウル好き” は既に読者の方なら御存知のところ。

7月の、まだ梅雨空の明けきらない午後、「週一回のマッサージ」を終えた志村けんがやってきた。
 
学生時代、ある時は人気者、ある時は邪魔者でしたヨ
 
──アルバム・レビューも好評なんですが、志村さんの音楽との出会いはいつ頃から?
志村 レコードを聴き始めたのは、中学生時代の、やっぱビートルズがキッカケですね。その後ずっとロックばっかり聴いてて、現在(いま)でもロックは聴きますけど、ただ最近はソウルの方が好きです。
──中学生の頃、バンドも組んでたんですか?
志村 ええ、一応せこーいバンド組んでましたヨ(笑)。
──どんな曲をやったんですか?
志村 やっぱビートルズの曲やりましたヨ。ビアホールなんかでやったりすると、「お前らうるさいなぁ」なんて言われてね。その頃、ベンチャーズなんかのインストが流行ってたからウケなかったですヨ。
──楽器は何だったんですか?
志村 リズム・ギターでした。でも本当に遊びで、バンドやったことにもならないんじゃないかな?
──この道に入ったのはいつ頃?
志村 17歳の頃、高校卒業してすぐドリフターズの付き人になって、その後、付き人の仲間とコンビを組んでやってたんですけど、2度失敗して、ちょうどその時荒井さんがドリフターズを辞めたんで、ドリフに入ったんです。もうドリフで4年になりますか……。
──やはり、若い頃から人前で何かやることが好きだったんですか?
志村 学生時代もある所では「人気者」。ある所では「邪魔者」でしたヨ。みんなが一生懸命に勉強しようっていう時、邪魔者でしたからね(笑)。
──ヒゲ・ダンスとかアルバム・レビューで音楽通であることがわかったんですけど、現在の仕事と音楽が趣味であることの結びつきなんてありますか?
志村 直接には結びついてないかもしれないけど、自然と舞台の上の会話とかテンポなどにでてきますね。ドリフのメンバーも元バンド・マンだったから、そういう面では、テンポとかリズム感が合いますよ。例えばCMソングなんかでも、子供が聴いて、自然とリズム感が身についているから、僕たちが知らないと、やっぱりギャグがかみ合わないと思います。




オーティス・レディングの歌で
ソウルに魅かれた

 
──志村さんがソウルに魅かれるのはどんなところですか?
志村 今もそうですけど、最初はスローな曲が好きだったんですヨ。黒人の、あの叫ぶ声が良くてね。でも一日の雰囲気によって聴き分けています。朝なんてファンキーなのを聴いたり、酒飲む時はスローなのを聴いたりね。
──思い出に残っている曲なんてありますか?
志村 ドリフに入って1〜2年ぐらいの時、ユーライア・ヒープなんていうのに凝ってたんですヨ。あそこはすごいヘヴィでしょ。でもヘヴィな中に必ず2曲ぐらい、キレイな曲があったでしょ。あれ聴いて、よく泣いたもんです。あのバンドは、本当はイイ曲を目立たせるために、まわりをうるさくしていたりしてね(笑)。実はヘヴィじゃなかったりして……(笑)。
──例えば失恋した時に聴いた曲なんてありますか?
志村 そういう時は、案外向こうの曲じゃなくて、日本の歌だったりするのね。でも、オーティス・レディングの「セキュリティ」は妙に思い出に残ってる曲ですね。特にソウルに凝り始めたキッカケはオーティス・レディングが最初ですね。まぁ、一時、付き人辞めてスナックをやってたことがあるんですけど、そこのジューク・ボックスの中にその曲が入っていてね。朝、掃除する時から、その曲ばっかり聴いていましたヨ。他にはジェイムス・ブラウンなんか、かなり聴いたんだけど、以前にラスヴェガスに行った時、小さなライヴ・スポットに出てて、俺たちはかなり混むと思って、一番前の席に座ったんだけど、ガラガラでね。手にしてたコップの中にツバばっかり入ったりして、期待していた割にはちょっとがっかりでした。
──他にどんなアーティストが好きですか?
志村 この前、5月にダイアナ・ロスのショウを見て、感激しまくって帰ってきました。今『ダイアナ』が一番気に入ってます。彼女と握手してきましたヨ。本当に可愛いですね(と、この日緊張した顔面が一気に崩れた瞬間)。他には、やはりテディ・ペンダーグラスかな。
──そういった人たちの魅力って何ですか?
志村 まぁ、あのリズム感はかなわないし、アップ・テンポの曲でも、妙に寂しいでしょ。寂しさが好きなんでしょうね。シャウトすればよけいに悲しくなってくるでしょ。歌詞の方はぜんぜんわかんないんだけど、やっぱり魅かれますね。




今までコメディは色モノだったけど、
僕はそう思わない
──若い人からのファン・レターの中で、志村さんの音楽の趣味なんかについて書いてくる人いますか?
志村 やあ、子供ばっかりでしょ。ひらがなばかりだから……(笑)。むしろ、僕が音楽を聴いてることなんて、外部の人たちにとっては興味がないことで、仕事仲間から言われますよね。アン・ルイスとかにね。「テディが好きなんだヨ」って言うと、「シブイね」なんて(笑)。
──コメディアンであり、しかもソウル通であるという、その「意外性」が非常に志村けんをクローズ・アップさせる一因であると思うんですが……?
志村 まぁ、いままではコメディっていうものはなんとなく色モノっぽいところがあったでしょ。でも、僕らはそう思ってないしね。
──ドリフのメンバーもみんなソウルが好きなんですか?
志村 そうね、いかりや長介もあの音が好きなのか、妙にソウルが好きですヨ。だから、僕がドリフに入って2年目ぐらいに、ソウルが好きで、好きでしようがなくて、レコード買ってて、聴いてるうちに、他のメンバーも「いいなぁ」なんて聴きだしたことがありました。ちょうどディスコ・ブームなんて言われた時期かな。それで、一回ソウルっぽい演奏をドリフでやってみないかってことになったんですけど、すぐ飽きられましたね(笑)。いやぁ、とてもじゃないけど「できない」ってね。
──再び演奏しようって気持ちはありますか?
志村 毎日毎日忙しくって、練習する時間がないでしょ。また音楽ってネタが非常に作りづらいんですよね。でも、やった方がいいんでしょうけど……。
──ギャグ作りなんかは、どうやって考えるんですか?
志村 全員、机を囲んで話し合って考えるんですけど、それぞれ自分のところは、自分で考えるんです。それが、やはり非常に辛いことなんです。それで、辛いから、ついつい終わってから飲んじゃたりするんです。最近はそうでもないですけど、以前はうちに帰って、テレビの絵だけつけておいて、こっちだけヘッドホンでレコード聴きながら、ずっと飲んでるという、妙な生活が続いてました。
──若手のコメディアンの人たちもギャグ作りの上で音楽との関わり合いがあるみたいですけれど……?
志村 そうですね。ただ音楽が身についてないと、現在の仕事はダメみたいですね。特にテンポの面でね。リズムを知ってないと、間(ま)とかいうことがわからないみたいですね。ただ早いだけでもダメなんですけど、遅い時は遅い時なりに、間とかテンポがありますからね。それに間をはずすってあるでしょ。あれもリズムを知ってないとね。お客さんが意表を突かれて笑うんですから……。
──じゃ音楽は仕事にとってやはり不可欠なモノですか?
志村 僕にとっては、そうですね。
──それと志村さんの場合は、身体を張って笑わせますよね。
志村 汗をかいてやる仕事が好きだからね。僕の場合はドタバタ・ナンセンスだから、そんな理屈とかなんとかいうより、身体を動かしていた方が、見ている人たちも気持ちがいいだろうしね。身体の続く限り、そう50歳を過ぎてもやれたら最高でしょうね。本当に僕は仕事人間だから、ギャグがウケれば、女も金もいらないって感じです。逆に、ウケない時は惨めだから、その気持ちを味わいたくないから努力するんでしょうね。
──じゃ最後に志村さんにとってのエンターテイナーって誰ですか?
志村 エンターテイナーっていう言葉がどんな意味をもつかはっきりしないけれど、今はやはりダイアナ・ロスかな。

※実際の紙面では、傍点や読み仮名が振ってある部分もありましたが、ここでは「」や直後に()を入れる形で対応しました。
※一部誤記の修正、また表記を現在一般的なものに修正した部分があります。

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非常に人見知りが激しく、そのためご自分のことを語るトーク番組にはほとんど出ることがなかったという逸話もありますが、この文面で見る限りは気さくな感じでリラックスしたムードが流れております。もしかしたら畑違いの雑誌ということで、話がしやすかったのかもしれませんね。

また、アルバム・レヴューでは、前々回のこの連載で取り上げたエアプレイこそ例外的にあったものの、それ以外お書きになっているのはソウル/R&B/ディスコなものばかりなので、ユーライア・ヒープの名が登場したのにはちょっと驚きました。偏聴せずあれこれ聴いて、この時たどり着いていたのがそうしたソウルやファンクだった、ということなのでしょう。オーティス/JB/ダイアナ・ロス/テディと、出てきた名前はファンなら嬉しいものばかりでした! ということで「志村けんインタヴュー」いかがでしたでしょうか。いつもの原稿とはまた違った、音楽ファンとしての横顔がうかがえたと思います。

さて、次回からはこれまでのスタイルに戻り、志村さんがお書きになった原稿再掲載に戻ります。チャカの次のリクエストが多かったのは……? 隔週金曜の公開で続けてきております本連載ですが、再来週金曜は24日(金・祭)のためお休みとさせていただきます。

ですので次回第6回は、7月31日(金)。こちらもどうぞお楽しみに!
写真提供:イザワオフィス
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