【追悼企画】『志村けんが愛したブラック・ミュージック』レコード評原稿・再掲載【連載第6回・ロバータ・フラック】

全10回でお送りしております「【追悼企画】『志村けんが愛したブラック・ミュージック』レコード評原稿・再掲載」も前回のインタヴューを経て折り返し、今回がもう第6回。トップの画像が毎回同じだったので、今回からテイストを変えてみたのですが、いかがでしょうか。
 

本連載は、70〜80年代にかつて弊社が刊行した音楽&カルチャー雑誌『jam』に掲載された、志村けんさんがお書きになったレコード評原稿を再掲載。前回のインタヴューで、言葉にして語っていたソウル/R&B愛だけでなく、言外から感じられる好きなものに対する愛情の傾け方も踏まえて読めば、本連載の過去の文章もまた違った味わいがあります。

そんなわけで第6回はみなさんからのリクエストを受け、トップの画像にある通りロバータ・フラックの『ダニーに捧ぐ』評原稿をお送りします。

……と、その前に、本作について簡単にご説明を。日本ではロバータ・フラック単独名義で『ダニーに捧ぐ』として1980年3月にリリースされた本作ですが(原題は『Roberta Flack Featuring Donny Hathaway』)、当初は二人のデュエット・アルバムとして制作が始まったものでした。しかし「ユー・アー・マイ・ヘヴン」と「バック・トゥゲザー・アゲイン」の2曲をレコーディングし終えた段階で、1979年1月13日にダニー・ハサウェイがホテルの窓から転落して他界。公式には自殺とされていますが、彼は統合失調症を患っていたことから、遺族らは事故死だったと主張しているそうです。そして彼の死から1年以上を経てようやくリリース、アルバムはビルボードの全米チャートでは最高25位、R&Bアルバム・チャートでは4位、ジャズ・アルバム・チャートでは9位となるヒットを記録しました。

【音楽雑誌『jam』】
『jam』は、1978〜1981年に弊社が刊行した音楽を中心としたカルチャー雑誌。『ミュージック・ライフ』『ロック・ショウ』と編集長を歴任した水上はる子氏が立ち上げ、ティーンを主な対象読者としたそれら2誌に対し、もう一段階上の年齢層、言わば “その2誌を卒業した読者” に向けたものでした。

【『jam』1980年5月号】
今回の原稿が掲載されたのは『jam』1980年5月号(この号の編集長は高橋まゆみ氏)、表紙はボブ・ゲルドフ。この号は本連載・第4回で公開した志村さんによるエアプレイ作品評の原稿が掲載されているため、ここでは二度目の登場です。表紙/目次で気持ちを40年前にタイムスリップさせ、志村さん原稿をお読みになってみてください(タップ/クリックで拡大できます)。

『jam』1980年5月号
同号目次

◾️同号アルバム評ページ、その他の掲載作品(※掲載順、太字は志村けんさん執筆分)
エアプレイ『ロマンティック』、エルヴィス・コステロ『ゲット・ハッピー!』、マイク・オールドフィールド『プラチナム』、シルヴェイン・シルヴェイン『ティーンエイジ・ニュース』、フライング・リザーズ『ミュージック・ファクトリー』、スー・サッド・アンド・ザ・ネクスト『紅の犠牲者』、アネット・ピーコック『パーフェクト』、ブルーフォード『トルネード』、ピーター・ブラウン『恋のスターゲイザー』、ウォーレン・ジヴォン『ダンシング・スクールの悲劇』、ボブ・シーガー&ザ・シルヴァー・ブレット・バンド『奔馬の如く』、エックス『EX』、ビリー・ジョエル『グラス・ハウス』、パット・ベネター『真夜中の恋人達』、ロバータ・フラック『ダニーに捧ぐ』、マートン・パーカス『仮面の群集』、ザ・スクェア『ロックーン』、ジェネシス『デューク』、ラモーンズ『エンド・オブ・ザ・センチュリー』、一風堂『ノーマル』、マリアンヌ・フェイスフル『ブロークン・イングリッシュ』、ウィルバート・ロングマイヤー『オール・マイ・ラヴ』、ザ・ナック『ナック2』、フィル・ダニエルズ&ザ・クロス『キングス・クロスの青春』フランキー・ミラー『フォーリング・イン・ラヴ』、マックス・ミドルトン&ロバート・アーワイ『アナザー・スリーパー』

◾️執筆陣(掲載順)
近田春夫、高橋まゆみ(本誌編集長)、志村けん、ピーター・バラカン、中村とうよう、糸井重里、湯川れい子、千葉和臣(海援隊)、中牟田俊男(海援隊)、木崎義二、福田一郎

【プロフィール】志村けん(しむらけん)

東京都東村山市出身のコメディアン。1950年2月20日生まれ、A型。荒井 注脱退に伴いザ・ドリフターズに加入、間も無く『8時だヨ!全員集合』で「東村山音頭」「ヒゲダンス」などでお茶の間の人気は絶頂に。その後も「バカ殿様」「変なおじさん」といったキャラクターを生み出した。テレビでは『天才!志村どうぶつ園』にレギュラー出演していたが、2020年3月29日、新型コロナウイルスによる肺炎で他界された。享年70。

音楽、特にブラック・ミュージック、ディスコ・ミュージック好きとして当時から広く知られていたことから、弊社『jam』でアルバム評を執筆することに。「ヒゲダンス」のトラックはテディ・ペンダーグラス、「ドリフの早口言葉」はシュガーヒル・ギャング+ウィルソン・ピケットで、いずれも自身によるセレクトであるというエピソードが知られている。また中学時代は熱烈なビートルズ・ファンで、1966年の武道館公演を見に行った逸話を披露したりもしていた。

【追悼企画】志村けんがライターとして執筆した、80年代ブラック・ミュージックのアルバム解説原稿再掲載

【第6回・ロバータ・フラック『ダニーに捧ぐ』】

Roberta Flack featuring Donny Hathaway

US:Roberta Flack featuring Donny Hathaway / Roberta Flack featuring Donny Hathaway
1980年3月発売(Atlantic/SD 16013)
日本:ロバータ・フラック『ダニーに捧ぐ』
1980年3月発売(アトランティック/P10802A)

Side A
1. Only Heaven Can Wait(For Love)/面影にさようなら(4:03)
2. God Don't Like Ugly/ゴッド・ドント・ライク・アグリー(4:34)
3. You Are My Heaven/ユー・アー・マイ・ヘヴン(4:10)
4. Disguises/おもわせぶり(2:24)

Side B
5. Don't Make Me Wait Too Long/ドント・メイク・ミー・ウェイト(7:45)
6. Back Together Again/バック・トゥゲザー・アゲイン(9:45)
7. Stay With Me/ステイ・ウィズ・ミー(3:47)


笑いと豊かさの中の悲しみを感じた


 

ロバータ・フラック『ダニーに捧ぐ』 アトランティック(P10802A)

ダニー・ハサウェイの追悼盤であるせいかこのアルバム全体が悲しみの色に包まれている。B面の「バック・トゥゲザー・アゲイン」などアップでディスコなどで踊れる曲なのだが、歌はけっして陽ではなく踊っていて涙が出てきそうな気がする曲だ。ロバータのメロウな歌声は聴く者の心をぐっと引きつける力をもっている。口先だけの歌ではなく、身体の奥深くから溢れ出る繊細な情感がこのアルバムでは特に感じられる。「面影にさようなら」は、何かのCM・ミュージックに使えそうな優しいメロディーであり、別れた女(ひと)のことを年追うごとに想い出させるような曲である。バック演奏も極めてシンプルで、「ドント・メイク・ミー・ウェイト」などは、ベースの効果をとてもうまくだしている。笑いの中の悲しみ、豊かさの中の悲しみ、そんなことを僕はこのアルバムから感じさせられた。
(志村けん)

註1:送り仮名の間違いを修正しました。
註2:文中の(ひと)は、誌面では「女」に読み仮名として振られていたものです。

 

 
 
Mastered At:RCA Studios, New York
Recorded At:Atlantic Studios, RCA Recording Studios, The Hit Factory, Power Station, Le Studio, Crystal Sound
Engineer:Howard Lindeman, with Bobby Warner, Gary Olazabol, Joe Lopes, Pat Martin, Paul Northfield
Mastered By Jack Adelman
 
Producer : Eric Mercury, Roberta Flack
Co-producer:Joe Ferla, Arif Mardin
Arranged:Roberta Flack, J. Mtume, Arif Mardin
String Arrangements:Armando Noriega, Paul Riser
Background Arrangements:Gwen Guthrie, Luther Vandross
Album Cover Illustration:Hélène Guètary
 
Roberta Flack:Vocals, Backing Vocals, Keyboards, Synthesizer
Donny Hathaway:Vocals
 
Guitar:Hiriam Bullock, Jeff Mironov, John Tropea, R. Lucas
Bass:Anthony Jackson, Basil Fearrington, Eluriel Barfield, Will Lee
Drums:Howard King
Keyboards:Harry Whitaker, Paul Griffin, Ray Chew, Ray Jones
Percussion:Errol “Crusher” Bennett
Synthesizer:Ed Walsh, Hubert Eaves, Ronnie Foster
Additional Horns & Strings:Ray Chew
Backing Vocals:Brenda White, Eleanore Mills, Eric Mercury, Gwen Guthrie, Jocelyn Shaw, Luther Vandross, Merle Miller, Revelation, Yvonne Lewis
 
Lyrics:Eric Mercury, Gwen Guthrie, Stuart Scharf, J. Mtume / R. Lucas, Gerry Goffin
Music:Roberta Flack, Gwen Guthrie, Stevie Wonder, Stuart Scharf, J. Mtume / R. Lucas, Michael Masser

【プロフィール】

ロバータ・フラック(Roberta Flack)


1940年、ノース・カロライナ州ブラック・マウンテン生まれ。69年にデビュー・アルバム『ファースト・テイク』を発表すると、その中の「愛は面影の中に」が全米ポップ・チャートのNo.1を獲得。その後『第2章』『クワイエット・ファイア』を発表し人気を不動のものとした。ダニー・ハサウェイとデュエットした『ロバータ・フラック&ダニー・ハサウェイ』を72年にリリース。アルバムがこの年のグラミー賞「レコード・オブ・ザ・イヤー」に輝くほか、収録曲の「恋人は何処に」が「最優秀ポップ・ヴォーカル賞」も獲得。さらに翌73年には、『やさしく歌って』で再び「レコード・オブ・ザ・イヤー」を含むグラミーをダブル受賞。続く『愛のためいき』も大ヒットさせるなど、ソウルやブラック・ミュージック界にとどまらない、スケールの大きな女性歌手として世界的人気者になった。80年代に入るとダニー・ハサウェイに代わってピーボ・ブライソンとのデュエットによる『ライブ&モア』がヒット。88年の『オアシス』のタイトル・ソングもR&BチャートのNo.1を獲得。ロバータは60年代を皮切りに70年代、80年代、90年代と確実に素晴らしい足跡を残したアーティストである。

ワーナーミュージック・ジャパンより引用


ダニー・ハサウェイ(Donny Hathaway)


1945年10月1日アメリカ・シカゴ出身。ソングライタ-、アレンジャ-、プロデュ-サー、キ-ボ-ド奏者でもあるダニーは当時の黒人アーティストには珍しい、白人アーティストの楽曲を自己流にカヴァーするスタイルで新世代の黒人アーティストとして脚光を浴びた。70年代の黒人社会が抱えていた問題にも踏み込み、後のソウルシンガーに多大な影響を与えた。1979年1月13日、滞在していたホテルから飛び降り33歳の若さで人生の幕を下ろした。90年代以降、過去のブラックミュージックが再評価される中でソウルの重要人物として再度注目を集めている。

ワーナーミュージック・ジャパンより引用

 

とても悲しい背景を持った作品だけに、おふざけはゼロ。ここでの志村さんは、かつて見たことがないほどシリアスな横顔を覗かせています。本作をお聴きになったことがない方は、この原稿を読んで聴きたくなったのではないでしょうか。笑いの中の悲しみ、豊かさの中の悲しみを、実際にお聴きになってお確かめください。

ということで、今回もお読みくださりどうもありがとうございました。次回・第7回は8月14日(金)正午に公開いたします。どうぞ次回もお楽しみに!

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