【追悼企画】『志村けんが愛したブラック・ミュージック』
 連載第7回・テディ・ペンダーグラス

pic : David Tan / ML IMages / Shinko Music 写真提供:イザワオフィス
連休もあって1週間余計にあきましたが、第7回を迎える「【追悼企画】『志村けんが愛したブラック・ミュージック』レコード評原稿・再掲載」。今回取り上げるのは、やはり人気が高かったテディ・ペンダーグラス。ある意味「真打登場」です。

 

本連載は、70〜80年代にかつて弊社が刊行した音楽&カルチャー雑誌『jam』に掲載された、志村けんさんがお書きになったレコード評原稿を再掲載。これまでの6回+インタヴューでの、ソウル/R&Bに対する愛情だけでなく、確かな知識まで感じられるその原稿、お楽しみいただけておりますでしょうか。

志村さんとテディの関係については、『8時だョ!全員集合』におけるヒゲダンスをリアルタイムでご覧になっていた世代の方には言わずもがなでしょうが、「“ヒゲ”のテーマ」の元ネタはテディの「ドゥ・ミー」でした。ウィキペディアによりますと、番組にあのコーナーが取り入れられていたのは1979〜80年の非常に短い時期だったそう。本稿執筆時点では、番組後半のあのコーナーはもう終了していたのではないでしょうか。

「“ヒゲ”のテーマ」演奏は、たかしまあきひこ&エレクトリック・シェーバーズ、プロデュースは志村けんと大書してあります。しかし作曲クレジットがない……と思ったら7インチの盤面に「K.GAMBLE & L.HUFF(ケニー・ギャンブル&レオン・ハフ)」としっかり書いてありました。ちなみにテディの「ドゥー・ミー」の方は、1979年リリースのアルバム『Teddy』に収録されております。イギリス、オランダではシングルカットされていたようですが、本国アメリカでのリリースはなし。日本ではヒゲダンスが人気を博したことから、「子供から大人まで話題集中」とシングルカットされたということです。

ドリフ ヒゲのテーマ ヒゲダンスの音楽
テディ・ペンダーグラス ドゥ・ミー 1979 / Do Me

そして今回取り上げるのは、その翌年1980年にリリースされた、アルバム『TP』です。

【音楽雑誌『jam』】
『jam』は、1978〜1981年に弊社が刊行した音楽を中心としたカルチャー雑誌。『ミュージック・ライフ』『ロック・ショウ』と編集長を歴任した水上はる子氏が立ち上げ、ティーンを主な対象読者としたそれら2誌に対し、もう一段階上の年齢層、言わば “その2誌を卒業した読者” に向けたものでした。

【『jam』1980年11月号】
今回の原稿が掲載されたのは『jam』1980年11月号(この号の編集長は高橋まゆみ氏)、表紙はザ・クラッシュ。「ロンドン音楽事情報告──01(ノイズ)ロンドン」と題し、多くのミュージシャンのインタヴューや、ライヴハウスやレコード・ショップ、裏方さんの紹介などで構成された、50ページにわたる複合的な特集。「マルチ感覚派のロック・マガジン」も伊達じゃありません。表紙/目次で気持ちを40年前にタイムスリップさせ、志村さんの原稿をお読みになってみてください(タップ/クリックで拡大できます)。

『jam』1980年11月号
同号目次

◾️同号アルバム評ページ、その他の掲載作品(※掲載順、太字は志村けんさん執筆分)
ゲイリー・ニューマン『テレコン』、ポール・サイモン『ワン・トリック・ポニー』、デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ『若き魂の反逆児を求めて』、ドゥービー・ブラザーズ『ワン・ステップ・クローサー』、テディ・ペンダーグラス『TP』、ポインター・シスターズ『内気なボーイ』、ザ・カーズ『パノラマ』、ケイト・ブッシュ『魔物語』、シン・リジィ『チャイナ・タウン』、ロッシントン・コリンズ・バンド『エニータイム、エニープレイス、エニーホエア』、アシュフォード&シンプソン『ミュージカル・アフェア』、クリス・レア『テニス』、ザ・ブレインズ『反逆のメロディー』、ザ・シリコン・ティーンズ『ようこそテクノ・パーティへ』、ロバート・パーマー『クルーズ』、アル・スチュアート『24キャロッツ』、加藤和彦『うたかたのオペラ』、フレッド・ノブロック『ホワイ・ノット・ミー』、シリータ&ビリー・プレストン『ワン・モア・タイム』、パット・ベネター『危険な恋人』、坂本龍一『B-2 UNIT』、カーレン・カーター『ミュージカル・シェイプス』、一風堂『REAL』、ヴァン・モリソン『コモン・ワン』、リヴィングストン・テイラー『ベスト・フレンド』、パンタ&ハル『ライヴ』

◾️執筆陣(掲載順)
近田春夫、かまやつひろし、志村けん、ピーター・バラカン、高橋まゆみ(本誌編集長)、湯川れい子、江口寿史、仲邨一、木崎義二、伊藤勝男

【プロフィール】志村けん(しむらけん)

東京都東村山市出身のコメディアン。1950年2月20日生まれ、A型。荒井 注脱退に伴いザ・ドリフターズに加入、間も無く『8時だヨ!全員集合』で「東村山音頭」「ヒゲダンス」などでお茶の間の人気は絶頂に。その後も「バカ殿様」「変なおじさん」といったキャラクターを生み出した。テレビでは『天才!志村どうぶつ園』にレギュラー出演していたが、2020年3月29日、新型コロナウイルスによる肺炎で他界された。享年70。

音楽、特にブラック・ミュージック、ディスコ・ミュージック好きとして当時から広く知られていたことから、弊社『jam』でアルバム評を執筆することに。「ヒゲダンス」のトラックはテディ・ペンダーグラス、「ドリフの早口言葉」はシュガーヒル・ギャング+ウィルソン・ピケットで、いずれも自身によるセレクトであるというエピソードが知られている。また中学時代は熱烈なビートルズ・ファンで、1966年の武道館公演を見に行った逸話を披露したりもしていた。

【追悼企画】志村けんがライターとして執筆した、80年代ブラック・ミュージックのアルバム解説原稿再掲載

【第7回・テディ・ペンダーグラス『TP』】

Teddy Pendergrass ‎– TP

US:Teddy Pendergrass ‎/ TP
1980年7月発売(Philadelphia International Records/FZ 36745)
日本:テディ・ペンダーグラス『TP』
1980年発売(フィラデルフィア・インターナショナル/CBSソニー/25AP-1909)

Side A
1. Is It Still Good To Ya/渇いた夜(4:35)
2. Take Me In Your Arms Tonight/ロンリネス・トゥナイト(5:24)
3. I Just Called To Say/ひとかけらの絆(4:28)
4. Can't We Try/傷だらけのハート(5:04)
 
Side B
5. Feel The Fire/フィール・ザ・ファイアー デュエット・ウィズ・ステファニー・ミルズ(5:31)
6. Girl You Know/ガール・ユー・ノウ(4:03)
7. Love T.K.O./ラヴ・T.K.O.(5:00)
8. Let Me Love You/レット・ミー・ラヴ・ユー(5:15)


思わず女性と聴きたくなる甘いムード


 

テディ・ペンダーグラス『TP』 フィラデルフィア・インターナショナル(25AP-1909)

以前から彼の歌の魅力にひかれていたが、特に「ドゥー・ミー」にお目にかかって以来彼のLPを買い集めている。彼の一ファンでしかないのだが、いざ彼のLPについて書こうとするとひじょうに煮つまってしまう。だから、このLPのA面を簡単に紹介してご勘弁を。①枯れた優しさで歌いあげるスロー・バラード。聴く者を包みこむ暖かさがある。②「ドゥー・ミー」を思わせるようなリズム。ヴォイスがリズムにのってスケールの大きさを感じさせ、思わず身体のどこかを動かしたくなる。③ミディアム・テンポの曲なのだが、哀しい感情を歌にしみこませている。④美しいほどのバラード。女性と思わず聴きたくなるほどの甘いムードを漂わせている。僕はテディのそんなところが好きなのである。とにかくまだテディを聴いたことがない人は、一度でいいから聴いてみてください。
(志村けん)

註1:送り仮名の間違いを修正しました。
 

 
 
Manufactured & Distributed : CBS Records
Recorded At – Sigma Sound Studios, New York
Mastered At – Frankford / Wayne Mastering Labs
 
Design : Ed Lee, Phyllis H.B.
Photography : Norman Seeff
A&R : Jean Scott
Engineer : Arthur Stoppe, Dirk Devlin, Kenny Present, Michael Hutchinson, Peter Humphreys, Bruce Bluestein, Doug Grinbergs, Joan Meisel, John Conzertino, Matthew Weiner, Mike Spritz, Vincent Warsavage
Management [Direction] – Alive Enterprises
 
Producer : Teddy Pendergrass , Ashford & Simpson, Dexter Wansel, Cecil Womack, John R. Faith, Cynthia Biggs, Gene McFadden, Jerry Cohen, John Whitehead
Arranged : John E. Davis, Dexter Wansel, Jerry Cohen, Teddy Pendergrass
 
Guitar : Cecil Womack, Dennis Harris, Eric Gale, Roland Chambers
Bass : Francisco Centeno, James Williams
Drums : Chris Parker, Quinton Joseph, Keith Benson
Keyboards : Cynthia Biggs, Dexter Wansel, Dennis Williams, Jerry Cohen
Piano : Valerie Simpson
Electric Piano [Fender Rhodes] : Ray Chew
Synthesizer : Bob Mounsey
Horns : Jon Faddis, Randy Brecker, Rob Mounsey
Horns, Strings : Arif Mardin, Don Renaldo, John Davis
Percussion : Ralph MacDonald, Ashford & Simpson, Ray Chew
Featuring Vocal : Stephanie Mills
Backing Vocals : Barbara Ingram, Carla Benson, Cecil Womack, Evette Benton, Nickolas Ashford, The Futures (Frank Washington, James King), Ullanda McCullough, Valerie Simpson, Dexter Wansel, The Jones Girls (Brenda Jones, Shirley Jones, Valerie Jones), Joe King, Kenneth Crew ,Teddy Pendergrass
 
Written-By : V. Simpson-N. Ashford, C. Biggs, D. Wansel, C. Womack, K. Hirsch, R. Miller, P. Bryson, G. Nobel, G. McFadden, J. Cohen, J. Whitehead

【プロフィール】

テディ・ペンダーグラス(Teddy Pendergrass

 

1950年3月26日、サウスカロライナ州キングスツリー生まれ。1970年代のブラック・ミュージック界で一世を風靡したフィラデルフィア・ソウルのトップスター。もともとはザ・キャデラックスのドラマーだったが、ほどなくハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツに合流。グループは彼をリード・ヴォーカルに据え人気を博した。1977年にアルバム『テディ・ペンダーグラス』でソロ・デビュー後は立て続けにヒット作品を生み出し続け、フィラデルフィア・インターナショナルの看板アーティストとして会社を牽引。同時代のソウル・シンガーであるマーヴィン・ゲイやアル・グリーンと共にセックス・シンボル的な存在でもあった。アルバム『TP』は1980年リリース、彼にとって5作目となるソロ・アルバム。ビルボード・チャートでは全米で最高位14位、ソウル・チャートでは3位を記録した。

1982年、ペンシルベニア州フィラデルフィアイーストフォールズでの自動車事故により四肢麻痺となったが、療養後に車椅子でステージに復帰し演奏活動を続けた。2009年、結腸がんであることが判明して闘病生活を送ったが、2010年1月13日に他界。59歳だった。

テディに対する思いを言葉にしきれず、もどかしさが溢れる原稿です。甘いムードをたたえた歌声はテディの真骨頂、彼のそういうところが好きとはお書きですが、「“ヒゲ”のテーマ」として取り上げ、その結果、彼のことを広く知らしめたのはアップでダンサブルな部分であったというのは面白いですね。

ということで、今回もお読みくださりどうもありがとうございました。次回・第8回は8月28日(金)正午に公開いたします。どうぞ次回もお楽しみに!

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